ヤブコウジ|石木花図鑑

あしひきの
山橘の
色に出でよ
語らひ継ぎて
逢ふこともあらむ

万葉集 第四

ヤブコウジ

『万葉集』にも山橘(ヤマタチバナ)の名で詠まれたヤブコウジは、古くから日本人に愛されてきた植物です。光沢のある青々とした葉、真冬につける真っ赤な実のコントラストは大変美しく人気があり、お正月の飾りとしては十両と呼ばれ古くから親しまれています。

暑さ寒さに強く丈夫で育てやすい点も特徴です。
ヤブコウジの育て方

置き場所

半日陰でも元気に育ちます。日当たりの悪い環境でも育成しやすいという点では貴重な植物です。

屋外の場合

柔らかな風や、優しい雨は植物を十分にリフレッシュさせてくれます。夏は日差しが強く乾燥の原因となるので注意が必要です。

「春・秋」

半日陰で育成しましょう。

「夏場」

夏の強い直射日光は葉が傷んだり、枯れたりする原因となるので避けましょう。日陰になる場所に移動するか、すだれや遮光ネットで直射日光を遮るなど工夫が必要です。

「冬場」
寒さには強く、寒害の心配は全くありません。しかし用土が凍結してしまうとよくないので寒風や霜からは保護しましょう。ムロや半屋内(寒い場所)などで管理することをオススメします。

屋内の場合

屋内で管理する場合、風通しの確保が重要になります。エアコンの風 が直接当たる場所や、直射日光が長時間当たるなど極度に気温の上がる場所は避けてください。たまに外の空気に当てたり、雨に当てたりしてあげると植物はリフレッシュできて元気に育ちます。

基本的には半日陰や明るい日陰を好みます。

「春・秋」

北側の窓辺のように、直射日光の当たらない窓際などで育成しましょう、カーテンレース越しの光も適します。

「夏場」
優しい日当たりで風通しのよい場所で管理します。窓辺に置く場合には、レースのカーテンなどで直射日光をやわらげてあげると良いでしょう。夏場は乾きやすくなるので、水枯れにも注意が必要です。

「冬場」

暖房の効いていない場所など寒いところで管理しましょう。気温の変化で実の充実が促されます。また、低温を体験すると春の芽吹きや花付きがよくなります。

→植物の冬越しについて

水やり

乾燥は嫌いますので、水切れに注意。特に春~夏はたっぷりあげましょう。水やりの目安は、春秋は1日1回、夏は朝夕の1日2回、冬は2〜3日に1回です。また、暑い時期の葉水は、葉の乾燥防止や健康維持に効果的です。朝や夕方に霧吹き等で与えるといいでしょう。

また、どうしても乾きやすい時期や外出時などは腰水という方法が有効です。

みずやりのタイミング

腰水について

肥料

4〜10月は月に1回の頻度で液肥を与えます。 ※バイオゴールドヴィコント564を基準にしています。その他の肥料を与える場合は説明書などを参考にしてください。 ※置き肥の場合は真夏と梅雨を除く4~10月の期間に月1回ほど、固形肥料を与えます。

病害虫

病害虫にとても強い樹木です。まれにアブラムシがつくこともありますが、その際は見つけ次第駆除しましょう。

→病害虫について

ヤブコウジ(藪柑子)の別名

山橘(ヤマタチバナ)・紫金牛

木々の小話

万葉集にも詠まれた藪柑子

冒頭の句は万葉集 第四にて、春日王(かすがのおほきみ)が詠んだ恋歌。

『あしひきの山の橘のようにはっきりと態度に出しなさい。そうすれば人の噂に語られてあの人に逢うことも出来るかも知れませんよ。』という意味です。

万葉集の中に春日王という名の人物は他にも何人か出てくるのですが、この歌を詠んだのは志貴皇子(しきのみこ)の子である春日王で、天智天皇の孫にあたります。

そんな春日王の詠んだ一首ですが、なんとも思い切った表現の一首ですね。「山橘(やまたちばな)」は、今で言う「藪柑子(やぶこうじ)」のことで、赤い実をつけることからはっきりと色に出す譬えとして使われています。恋は隠さないほうが上手く行くというのはある意味で、ひとつの真理かもしれませんね。

この句の他にも多様な句に藪柑子が登場することから、古くより親しまれていることが窺い知れます。

売買を禁止された藪柑子。

万葉集や源氏物語にも登場するほどヤブコウジの歴史は古く、そのころからお正月や長寿を願う儀式に用いられていたと言います。また、江戸時代には葉に「斑」が入るヤブコウジが愛好家などの間で人気となり、多くの品種が生み出されました。

そして明治20年ごろからは新潟県で再び流行し、明治27年頃には全国的にヤブコウジが一大ブームとなります。やがて投機の対象として見られるようになり、趣味家だけではなく一般市民も巻き込み、1株で1000万円もの高値で取り引きされるに至りました。そして、この事態を重く見た当時の新潟県知事はヤブコウジの一切の売買を禁止する法令が出されました。

特異な歴史ではありますが、ヨーロッパでも似たような例があります。気になる方は「チューリップ・バブル」で調べてみて下さい。モノの価値について考えさせられる出来事です。

ヤブコウジの詳しいお手入れ

ヤブコウジ(藪柑子)に適した用土

一般には赤玉単用または、腐葉土を少し加えます。

「石木花の土」が適します。

植え替え

植えつけ、植え替えは、新芽が伸びる前の春、または涼しくなる9月~11月に行います。
ヤブコウジは地下茎を伸ばして株が大きくなるので、大きくしたい場合は、一回り大きな鉢に植えます。植え替えは、2~3年に1回行えばよいでしょう。小さく維持する場合は、2~3年に一度植え替えますが、その際に葉の出ていない古株を切り落として植えなおします。

剪定

剪定せずに長期間育成すると枝が伸びすぎたり、樹形が悪くなってきます。3月~4月に、株元から5cm程度の高さで刈り込みます。やがて秋ごろには葉が茂って、元の状態になります。
刈り込み剪定は定期的に肥料をあげて、しっかり効いていることでより健全な芽吹きが得られます。あまり肥料をあげていない場合は無理に刈り込む必要はありませんので、春先に勢いよく伸びる枝を切る程度に剪定します。

育成のポイント

◯植物に四季を体感させてあげることで末永く健康的に育成できます。

◯夏の水切れに注意します。朝に水をやっても夕方乾いてしまうようなら置き場所を工夫し、できるだけ涼しいところで管理しましょう。どうしても乾いてしまう場合は腰水でしのぎます。※腰水の常用はNGです。あくまで暑い期間限定にしましょう。

腰水とは?

◯古い葉は紅葉したあと落葉しますが、長年育成すると枝ぶりが充実して枝先の葉が密集してきます。そうなった場合は一部の枝を剪定で抜いてあげたり、枝元の葉を透いて風通しを良くしてあげましょう。

◯肥料を定期的に与えましょう。

◯特に屋内管理の場合は日照や風通しの条件が悪くなりやすいため、活性剤を定期的に与えることでより健やかに育成できます。

肥料・活性剤

光沢があり、縁に鋸歯があります。冬も葉を落としませんが、一部の古葉は紅葉してやがて落葉します。

夏頃になると白色もしくは薄いピンク色の可愛らしい小さな花が下向きに咲きます。
花後に丸い実をつけます。秋~冬には真っ赤に色づきます。
耐寒性
水やり
日光
肥料